明治の作家 田山花袋(たやまかたい)は、めっちゃ旅好きでした。
日光や栗山の旅の記録もあり、どれも貴重なものです。
ちょっと紹介します。
参考 田山花袋シリーズ②
田山花袋 著「花袋紀行集」栗山郷 〜 5くり現代語訳 〜
ざっくりいうとこんな感じです。
ある秋のこと。
田山花袋が栗山郷へ旅をします。
紅葉や渓谷が絶景だけど、歩きなのでめっちゃしんどい山道。
苦労して歩いて、歩いて、川俣温泉の宿にたどりつきます。
宿に泊まって温泉にはいったり囲炉裏で栗山餅(今のバンダイ餅)を食べたりしてくつろいでいました。
ある朝、天気は荒れ、激しい雨と風が吹いてきました。
嵐はますます強くなるばかり。
そこに24、5歳くらいと思われる若者が宿に訪れます。
嵐のなか歩いてきたのでしょう。
めっちゃずぶ濡れだし、顔も青白い。
かんたんにいうと、異常。
おかみ「いらっしゃいませ・・・」
男「西沢金山はここからあとどれらいでしょうか?」
おかみ「えーと、けっこう遠いよ。っていうか天気やばいの分かるよね?まずは泊まって明日・・・」
花袋「!(・・・あそこいくのかよ!たとえ晴れでもガイドなしじゃムリムリムリ)」
男「イヤ・・・これから行きます」
おかみ「えーと、びしょ濡れだし、ボロボロだし、まずは温泉はいらないと風邪ひくよね・・・」
男「イヤ・・・」
おかみ「どうかしたんですか?」
男「・・・」
おかみ「話してみろやー!男だろ?」
男「(泣きながら)・・・お金がないんです」
おかみ「え?」
あまりしゃべらなかった男が話はじめた。
以前は足尾銅山にいた鉱夫だったが辞めて、西沢金山で雇ってもらうためこの山奥までやってきた。
だがここまでくる途中でお金を使い果たしてしまったというのだ。
男「・・・(涙)」
おかみ「(夫と相談後)・・・泊まっていってください」
男「・・・え?よいのですか?」
花袋「!(信用しちゃう感じ?お金ないのにいいの?)」
男はひとっ風呂浴びて復活したあとも、さらに語る。
男は岡山県出身(備前児島)であった。
とにかく事情があってお金が必要になった男は、ある程度稼げるまで故郷にかえれないらしい。
以前は足尾銅山で鉱夫とした働いていたが、なじめず脱走した。
足尾では確かにお金は稼げるのだが、仕事のあとの「酒と女の誘い」が多い。
男はそういうのに興味ないし、そもそもお金をためたいので基本は断りたい。
でも断ると「おれたちブラザーじゃないのかよ?」と言われ、仲間はずれになっていじめられる。
さらにお金を貸しても戻ってこない。
結果まったくお金が貯まらないので、このままではいつまで故郷に帰れない。
男「・・・(涙)」
おかみ「・・・(涙)」
足尾を脱走したあと、いろいろな鉱山に行き働き口を探したが、どこも募集していない。
栗山の「日向銀山」にも「野門銀山」にも行ってダメ。
それでさらに山奥になる西沢金山を目指していた。
途中でお金はほぼなくなってしまった。
男&おかみ&花袋「・・・(涙)」
おかみはお金を持っていない男を泊めたばかりか、いろいろ親切にしてくれた。
西沢金山のボスとも知り合いといい「この人を雇ってね。雇わなかったら、分かっているわよね?」という内容の紹介状を書いてくれた。
花袋「・・・(川俣の人はなんて親切なんだ)」
翌日に嵐はさり、男も花袋も出発することに。
花袋も西沢金山とおなじ方向にある湯元(奥日光)方面まで行く予定だった。
そこでおかみは、花袋と男が途中まで一緒に行くのがいいと提案した。
花袋は提案にのった。
おかみは西沢金山までの詳しい道を説明し、さらに自らも途中まで同行した。
「もし西沢金山で働けなかったら、またこの宿に戻ってきてください」とまで言ってくれた。
男「・・・(涙)」
花袋「・・・(川俣の人、どんだけ・・・)」
こんな宿はほかにないと、花袋も感動しまくりでした。
おかみと別れたあとも、教えてもらったら通りに進むと道に迷うことはありませんでした。
ようやく西沢金山方面と湯元方面の分岐点でます。
男は花袋に別れを告げたが、花袋もまだ心配。
もし西沢金山で働けなかったらめっちゃへこみそうだな。
ということで、ちょっと遠回りになったが、けっきょく西沢金山までついて行くことに(花袋もやさしい)。
西沢金山にぶじ到着。
西沢金山でもスタッフ募集はしていませんでした。
でもおかみからの招待状のおかげで、最初は鉱夫じゃなくて事務でもいいなら・・・ということで、働けることになりました。
田山花袋は男に別れをつげて、湯元へ行きました。
男体山や太郎山の絶景に眺めながら、男はこれからうまくやっていけるだろうか?といつまでも心配をしていましたとさ。
おしまい。
※西沢金山は西山金山という表記になっています